ゆりかごの手:詩語篇
ゆりかごの手。
私が目を覚ましたのはそんな母の手の中だった。
ベトナムで生まれた17歳の私が最初に思い出した記憶がそれだ。
それは観光リゾート・ダナンに建設された金色の橋を見た今はっきりと思い出した。
なんでもないようなことが幸せだったと思うあの日を。
グラデーションの深い大きめのサングラスをかけいかつい風体が特徴の70代男性は「自分の場合」とか「親心なんですよ」とか口癖。
まるで暴力団組長のようではあるがアマチュア競技団体の理事長もしていた。
世間からは「新しい船に古い水夫はいらない」と揶揄されたが、何が悪いのかまったく気づいていないのでどこか無邪気でもある。
オールバックのガタイの良い若い衆(やたらと汗っかきな30代)を従えた白髪のこの男性はかつてその業界ではボス的存在だったが、実はその上には昔関取だった過去を隠して大学の理事長まで上り詰めた大ボスがいた。
彼女は少々言動が奇妙だった。
突拍子もない虚言を吐いたかと思えば、正論とも言える国家論なども口にする。
かつては国会議員だったようだが、今の生業はなんだかわからない。
51歳の彼女が若くも見えるが老けても見える。
妖艶で艶っぽさもあるが毒婦のような貫禄を見せることもある。
差別と偏見の塊ではあるが小学生になる娘を持つ母ということもまた事実である。