地球環境原理主義

自然環境や地球環境を気づかいながらも人間としてよりよく生き抜く!

生きていた豚から腸詰:第1幕-第4景

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第1幕第4景-----

 

   (こどもの時間)

   (彼の身なりはきちんとしている。歳の頃は10歳くらいだろうか…)

   (だが彼は埃まみれになっている…そうまるで空爆を逃れてきたように)

 

サウディ …戦争と平和

 

     ボクは戦争を知らない。

     ボクは戦争とは何なのかを知らない。

 

     ボクは戦場に行ったことはない。

     でもボクは毎日暮らすこの街で落ちてくる爆弾から逃げている。

 

     でもここは戦場じゃない。

     ここは僕らの暮らす街だ。

 

     昨日、ママが死んだ。

     去年、パパがいなくなった。

     お姉ちゃんもどこにいるのかわからない。

 

     悲しかった。

     悔しかった。

     心の中でグラグラとお湯が沸騰するみたいに…

 

     この気持ちが、憎しみってものだと今日知った。

 

   (体の埃を払い…)

 

     昨日、お友達になったアヴドゥルがこの銃をくれた。

     倒れて動かなくなったアメリカの兵士が持ってたんだって。

     これ、売ろうかと思ったんだけど…やっぱり持ってることにした。

     パパとママとお姉ちゃんを殺したヤツに会うかもしれないし…

 

     ボクは空を鳥のように飛ぶあの戦闘機が好きだ。

     あのF16も好きだけど、本当はF14トムキャットが好きなんだ。

     とにかく大きくてカッコイイ。

     F16はちょっと小さいね。

     アメリカでは空母から飛び立つ姿が見れるみたいだね。

     みてみたいなぁ…

サウディ ボクはずっと戦闘機のパイロットになりたかった。

     あの空を自由に飛びたかった。

     でももう無理だね。

     どうやったら乗れるようになるのかも知らないし…

 

   (後ろを振り向き…)

 

     あ…もう行きます。バスが出ちゃうんだ。

     あのバスに乗れば…きっと正しい場所へ連れて行ってくれる。

     さっき、あのお兄さんが教えてくれたんだ。

     あのバスに乗っていけば、神様がボクを守ってくれるって。

 

   (走り去る)

 

   (やや間をおいて…遠くで爆発音)

 

   (暗転)

 

ユウスケ  (声だけ)生きてる?

 

タイゾウ  (声だけ)うん、なんとか

 

   (明転、ガレキに埋もれた中、二人が顔と手だけなんとか出している)

 

ユウスケ 何が起きた?

 

タイゾウ あ! 食べかけのハンバーガー!

 

ユウスケ そういう問題?(笑)

 

タイゾウ えっと…オレたちだけかな?

 

ユウスケ 世界に二人だけ?(笑)

 

タイゾウ そんな気がしなくもない(笑)

 

ユウスケ これ…出れないよね?

 

タイゾウ (モガくが)出れなさそう

 

ユウスケ 爆発…したんだよね?

タイゾウ おそらくね。それもかなり大きいヤツ。

     だって、おそらくオレの右耳聞こえてない。

 

ユウスケ オレも、おそらく左腕の感覚無い…

 

タイゾウ 足はどう?

 

ユウスケ う〜〜ん…足も無いかなぁ

 

タイゾウ オレも、下半身が全体的にジンジンしてる

 

ユウスケ やられたね

 

タイゾウ やられたな

 

ユウスケ 誰か救い出してくれて改造してくれないかなぁ?(笑)

 

タイゾウ キカイダー?(笑)

 

ユウスケ サイボーグって言ってくれよ(笑)

 

タイゾウ そういえばオレ、謝んなきゃならないことがある

 

ユウスケ いいよ今さら(笑)

 

タイゾウ そう?

 

ユウスケ …言えよ(笑)

 

タイゾウ そのハンバーガー…チーズバーガーなんだ

 

ユウスケ ええ! オレが乳製品アレルギーなの知ってるじゃん!

 

タイゾウ ゴメン、忘れてた…

 

ユウスケ もぉ〜〜〜…まぁでもいいよ、もうどうせ食べれないし(笑)

 

タイゾウ そう?(笑)

 

ユウゾウ ねぇねぇ、どんな機能のサイボーグになりたい?

 

タイゾウ 改造してもらったら?

 

ユウスケ そうそう

 

タイゾウ そうだなぁ…

 

ユウスケ オレはね、光の速さで移動できる能力

 

タイゾウ オレはね…邪悪な心を浄化する能力

 

ユウスケ ガンダルフ?(笑)

 

タイゾウ あぁ…でも死にたくないなぁ…

 

ユウスケ …

 

タイゾウ 死んじゃった?

 

ユウスケ いや…眠いだけ…

 

タイゾウ 眠ったらそのまま死にそうだけど…

 

ユウスケ …そっか?

 

タイゾウ オレまで眠くなるじゃん

 

ユウスケ …じゃあ…眠っちまおうぜ

 

   (二人、やや押し黙る)

 

タイゾウ …いややっぱり違う!

 

ユウスケ よせよ

 

タイゾウ だってそうじゃないか!

 

ユウスケ なんだよ急に…

 

タイゾウ お前はおかしいとは思わないのか?

 

ユウスケ 何がだよ

 

タイゾウ この状況がだよ!

 

ユウスケ …

 

タイゾウ 俺たちに何が…この街に何が…世界に何が起こったんだよ!

 

ユウスケ …それを知ってどうするんだ

 

タイゾウ どうする?…違うよ!オレは真実を知りたいだけなんだ!

 

ユウスケ 真実?

 

タイゾウ ああそうさ!知りたいんだよ真実が!(ガレキを叩き)教えてくれよ!

 

ユウスケ …(冷めた目で見ながら)真実にどんな意味がある?

 

タイゾウ 真実を知れば…納得できるかもしれないじゃないか

 

ユウスケ 本当に?…薄々予想してる結末とは違っても?

 

タイゾウ それが真実なら…

 

ユウスケ それがどれだけ理不尽だとしても?

 

タイゾウ あぁ…真実なら

 

ユウスケ どれだけ残虐でも?

 

タイゾウ あぁ…真実なら

 

ユウスケ アドルフは実は世界の救世主だったとか

 

タイゾウ あぁ…

 

ユウスケ ポルポトの大虐殺は隣国ベトナムの仕業だったとか

 

タイゾウ あぁ…

 

ユウスケ 我々人類の祖先は、宇宙から来たコーディネーターだとしても?

 

タイゾウ …

 

ユウスケ 今こうやって話している我々が実は存在していないとしても?

 

タイゾウ …

 

ユウスケ お前のオフクロがオレの親父の愛人だとしても?

 

タイゾウ …

 

ユウスケ 夢さ

 

タイゾウ 夢?

 

ユウスケ オレたちは夢を見ているのさ…長い長い夢を…

 

タイゾウ …そっか…そうだな…夢かもしれないな

     目が覚めたら…ハンバーガー食ってるかもしれないしな

 

ユウスケ そうそう…夢オチ

 

タイゾウ …夢オチねぇ

 

  (二人とも眠るように…死す)

 

  (アポカリプティック・サウンドが聞こえる)

 

  (遠くから、振動とともに轟音がやってくる)

 

  (まるで世界の終わりのように…)